人生の終わりまで、あなたはどのように過ごしたいですか?

お知らせ
2019.08.14

先日、研修に参加して来ました。
皆さんは、アドバンス・ケア・プランニングをご存知ですか?

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)とは、もしもの時のために、あなたが望む医療やケアを受けるために、大切にしていること望んでいること、どこでどのような医療やケアを望むかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人たちと話し合い、共有する取り組みを言います。

この話し合いは、たとえば入院のたびごとに、繰り返し行われ、その都度、文書として残します。
リビング・ウィルや事前指示書は、病気のあるなしにかかわらず、いつかは理性的判断ができなくなることがあることを想定し、自分自身の人生の終末期には、このようにして欲しいと希望を述べておく書類ですから、特定の医療施設や介護施設を想定しているものではありません。

一方、アドバンス・ケア・プランニングにより作成される文書は、本人が、家族を交えつつ、当該の医療者や介護提供者と話し合う結果作成される書類であり、当該医療施設や介護施設にとっての事前指示書に該当します。 当然のことながら、患者本人のリビング・ウィルをこの文書の中に織りこむことができますので、作成したリビング・ウィルを施設側にお渡しいただけます。

厚労省が2018年に4度目の改訂版を出した「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」において、アドバンス・ケア・プランニングの概念が導入されており、心身の状態の変化等に応じて本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針を、繰り返し話し合うことと、本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性を記載しています。

ここで、研修で提示された事例を1つ紹介します。

80歳女性、ガン末期。娘さんと2人暮らし。入退院を繰り返し、余命6ヶ月と宣告を受けたが、余命を超えた(9ヶ月以上)。「積極的な延命はしたくない」「最後は娘のそばで過ごしたい」書面で本人のACP記載。本人も退院を希望。過去には仕事で帰りが遅く構ってくれなかった、育ててもらった記憶が無い、と娘さんとの確執があり。
徐々に体調が悪化、経口摂取が困難となる。ACPを皆で共有していた。延命はしない。娘に穏やかでいて欲しい。自宅で最後を迎えたい。しかし、娘は本人のACPとは違う判断で悩んでいた。点滴を希望、何かをしてあげたい。黙ってみてられない。此処に、本人のACPと娘の感情のズレが発生。主治医と訪問看護師は点滴によるメリットとデメリット、人が自然に亡くなる過程を丁寧に説明。しかし、娘は「何もしないと言う事は見殺しにするということですか?」「私のやっている事は、全て無駄なんですか?」と途中で娘さんがパンク。チームでの話し合いで、医療者は、自宅での看取りは厳しいのではないか?施設での看取りに切り替えては?しかし、介護職とケアマネは娘との時間を過ごしたい、娘への過去の気がかりをいつも口にしていた。本人は娘と一緒に居たいと思う。娘への信頼はとても厚い。
本人のACPを考え直す。延命したくない、娘さんが穏やかでいることが大切。この二つの両立は困難…。本人の最善を考える。娘と一緒にいたい、娘が穏やかでいることが最優先。その為には延命が必要。ご本人は娘の平穏を選ぶだろう。点滴を開始した。1週間後穏やかに旅立たれた。エンディングの娘さんの言葉「母の意向とは違うけど、何か手立てを講じていると伝えたかった。母は幸せだったと思います。ありがとうございました」ACPによって、少しだけ人生の和解を助けたのかも知れません。ACPが表明されていても、迷い・もがくことは多々あります。本人にとっての最善を考え抜くことで本人の価値観を酌むことが出来た。少し難しい事例でしたが、本人の最善を医療・ケアチームで考えた1例でした。
皆さんはどう感じましたでしょうか?

看護師長 田縁加寿子